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清川あさみ, 最果タヒ『千年後の百人一首』

千年後の百人一首

千年後の百人一首

たご田子うらに うちでてれば しろたへ白妙
ふじ富士たかね高嶺に ゆきりつつ


ごらん、
田子の浦の浜辺にでれば、
見上げるそこに富士山だ。
ごらん、
きみの瞳のなかの、その白い高嶺に、
今も、雪が降っている。

けぬれば るるものとは りながら
なほうらめしき あさぼらけかな


わたしたちの声だけが響くような、しずかで深い夜の底に、
ひとしずく、光が落ちて滲んでいく。
朝がくるんだ、見上げた先に、木々の影が、塀の白さが浮きあがる。
わたしたちを引き合わすのも、引き裂くのも、
どちらも時の流れなんだね。
それなら時を、わたしは恨もう。
すべての夜はもう、明けなくったってよかったんだ。

おもひわび さてもいのちは あるものを
きにへぬは なみだなりけり


細い糸のような私の命に絡まるように、私の涙が列を作って、つらつらと流れていく。
わたし、永遠に生きていくつもりなのでしょうか、あなたが、わたしを愛さなくても。

ながらへば またこのごろや しのばれむ
しとぞ いまこひしき


感情も呼吸も思考もすべてが刃となって身体の底に降り注ぐ、
この時間さえ生きながらえば、
この痛みも懐かしく思う日が来るのだと、知っている私は立ち尽くしている。


すべてがひび割れていく、
その跡は、いつかうつくしい陶磁器の模様のようにすら見えるでしょう、
私は手のひらで撫でながら、
ここに痛みがあったのだということを思い出すようになるのでしょう。
これまでも、そうだったから。
私は、ただ立ち尽くしている。