show

Soulquarians at Electric Lady Studios

D’Angeloは俺より少し先を歩いていたんだ。奴はあそこが神聖な場所だってことを知っていた。それで「あそこは神の祝福を受けているんだ。あそこへ行かないとダメだ。行って然るべきなんだ」って言ったのさ。

みんな色々学んでいた。その中で、D’AngeloJimi Hendrixの影響がなければPrinceはPrinceとして成立していなかったってことに気が付いた。George ClintonからStevie Wonderまで、ありとあらゆるアーティストがJimi Hendrixの影響を受けていることに気が付いたのさ。Jimi HendrixD’Angeloが好きだったすべての音楽の中心だったんだ。この頃、Erykah BaduとCommonはLed ZeppelinPink Floydを聴くようになっていた。Jimiが作ったスタジオに行くようになって、サイケデリックロックに興味を持ちだしたんだ。あと、全員がMarvin Gayeのファンク/ソウル感を身に付けようとしていたね。本気で習得しようとしていたよ。

大半の時間は座ってPrinceのライブ映像を見ていた。それを終えてから制作が始まったんだ。午後7時から午後9時まではTVの前に座って、何回もPrinceのパフォーマンスを見た。俺たちはそうやって盛り上がっていったんだ。音はスピーカー経由で大きかったし、コンサートみたいな感じだったね。D’Angeloは「そうだ! 俺がやりたいのはこれだよ!」って言っていたな。

俺が自分のブースに入って、D’Angeloも自分のブースに入ると、それからは2時間ぶっ続けでその前に見ていたPrinceのライブ映像を丸々再現しようとした。

俺は「マジ?」って感じだったよ。J. Dillaが作ったそのビートが、『Like Water for Chocolate』の中の「Dooinit」になったんだ。

その時、俺は世界中のレコードを持っているのに、ちゃんと聴いていなかったってことに気が付いたんだ。J. Dillaは聴いていた。音楽をちゃんと聴いていたんだ。大抵のビートメイカーはさっと聴くだけだ。レコードは買うが、ちゃんと座って30分じっくりと音楽を聴くなんて耐えられないのさ。奴のベストサンプルのいくつかはオリジナルトラックの最後の40秒から取ったものなんだ。Laura Nyroのサンプルがあって、そのオリジナルは9分もある。俺は半分ほど聴いて「使える部分がまったくないな」と言って、飛ばしてしまった。でも彼は5回連続で聴いて、フェードアウトが始まる直前の30秒で魔法を起こした。奴はニンジン1本をちゃんとした食事に変える術を知っていたのさ。

『Vibe』誌のあの写真は終わりの始まりだった。

マーチングバンドと一緒のKanye Westを見て、次のムーブメントの中心に俺はいないってことが分かった。奴が次のリーダーになるということを俺は理解しなければならなかったんだ。