show

Samuel Beckett『事の次第』

事の次第

事の次第

事の次第これはすべて引用文ピム以前ピムとともにピム以後の三部にわけて聞いたとおりにわたしは語る


声よ最初は外から四方八方あちこちからぺちゃくちゃと次にわたしのあえぎが止まるときわたしの内部から聞こえてくる声よふたたびわたしに語れ呪文じゅもんばかりを語るのはもうこれでおしまいだ

わたしは言ったひとり言彼はよくなった昨日よりよくなった昨日ほど醜くなく馬鹿でなく意地悪でなく汚れてもいず老人でもなくそして不幸でもないところがわたしはとわたしは言ったひとり言わたしは決定的悪化の不断の連続


ここで何かがまちがっている


わたしは言ったひとり言この上悪化はしないだろうそれがわたしの勘違い

ピムの右のしりに最初の接触彼は聞いたに違いないわたしの爪がきしむ音これぞ美しき過去

腋の下爪を立てられ泣きもせず彼が歌をうたうというその日がついにやってくる歌声は上がる現在形ふたたび現在形で進行する

調教の続き特に言うことなし省略

もうたくさんだ抜粋の終わりほんとにこんなことあったのかいやいや証人などない書記などいない一人きりそれでもしかしわたしには聞こえるそれをささやく一人きり暗闇のなか泥のなかそれでもしかし

ピムはやくピム以後を彼が消えてしまわぬうちに彼は全然存在しなかった存在したのはわたしだけわたしがピム事の次第わたし以前わたしとともにわたし以後事の次第をはやく

ひとりぼっちで泥のなかそうウイ暗闇のなかそうウイまちがいないそうウイあえぎながらそうウイ誰かがわたしの声を聞いているいやノン誰も聞いていないそうノンときどきはささやきながらそうウイあえぎが止まるそのときにそうウイ他のときにはささやかないいやノン泥のなかそうウイ泥にむかってそうウイわたしがそうウイわたしの声をわたしにそうウイ他人にではないそうノンわたし一人だけにそうウイまちがいないそうウイあえぎが止まるそのときにそうウイときどき思い出したように単語をいくつかそうウイ断片いくつかそうウイ誰もそれを聞いていないそうノンしかしだんだん少なくなる応答なしだんだん少なくなるそうウイ


それでは変化が起こるかもしれない応答なし終わるかも応答なしわたしは息が止まるかもしれない応答なし沈むかも応答なしこれ以上泥を汚すことはなくなるかも応答なし暗闇を応答なし沈黙をこれ以上乱すことはなくなるかも応答なしくたばるかも応答なしくたばるかも絶叫わたしはくたばるかもしれない絶叫わたしは間もなくくたばるのだよしボン