Samuel Beckett『事の次第』
- 作者: サミュエルベケット,Samuel Beckett,片山昇
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 2016/05/27
- メディア: 単行本
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事の次第これはすべて引用文ピム以前ピムとともにピム以後の三部にわけて聞いたとおりにわたしは語る
声よ最初は外から四方八方からぺちゃくちゃと次にわたしのあえぎが止まるときわたしの内部から聞こえてくる声よふたたびわたしに語れ呪文ばかりを語るのはもうこれでおしまいだ
わたしは言ったひとり言彼はよくなった昨日よりよくなった昨日ほど醜くなく馬鹿でなく意地悪でなく汚れてもいず老人でもなくそして不幸でもないところがわたしはとわたしは言ったひとり言わたしは決定的悪化の不断の連続
ここで何かがまちがっている
わたしは言ったひとり言この上悪化はしないだろうそれがわたしの勘違い
ピムの右の臀に最初の接触彼は聞いたに違いないわたしの爪が軋む音これぞ美しき過去
腋の下爪を立てられ泣きもせず彼が歌をうたうというその日がついにやってくる歌声は上がる現在形ふたたび現在形で進行する
調教の続き特に言うことなし省略
もうたくさんだ抜粋の終わりほんとにこんなことあったのかいやいや証人などない書記などいない一人きりそれでもしかしわたしには聞こえるそれをささやく一人きり暗闇のなか泥のなかそれでもしかし
ピムはやくピム以後を彼が消えてしまわぬうちに彼は全然存在しなかった存在したのはわたしだけわたしがピム事の次第わたし以前わたしとともにわたし以後事の次第をはやく
ひとりぼっちで泥のなかそう暗闇のなかそうまちがいないそうあえぎながらそう誰かがわたしの声を聞いているいや誰も聞いていないそうときどきはささやきながらそうあえぎが止まるそのときにそう他のときにはささやかないいや泥のなかそう泥にむかってそうわたしがそうわたしの声をわたしにそう他人にではないそうわたし一人だけにそうまちがいないそうあえぎが止まるそのときにそうときどき思い出したように単語をいくつかそう断片いくつかそう誰もそれを聞いていないそうしかしだんだん少なくなる応答なしだんだん少なくなるそう
それでは変化が起こるかもしれない応答なし終わるかも応答なしわたしは息が止まるかもしれない応答なし沈むかも応答なしこれ以上泥を汚すことはなくなるかも応答なし暗闇を応答なし沈黙をこれ以上乱すことはなくなるかも応答なしくたばるかも応答なしくたばるかも絶叫わたしはくたばるかもしれない絶叫わたしは間もなくくたばるのだよし