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Umberto Eco『バウドリーノ』

バウドリーノ(上) (岩波文庫)

バウドリーノ(上) (岩波文庫)

バウドリーノ(下) (岩波文庫)

バウドリーノ(下) (岩波文庫)

そこで僕は僕の父のめすうし牝牛を父親といっしょに買いに来たベルゴリオ村のネーナをつかまえて言った森に行っていっしょに一角獣をつかまえようと僕は彼女が処女だと確信していたので木の根元まで連れてゆき彼女に言ったおとなしくここにいて一角獣が頭を入れられるように脚を開けと何を開くってと彼女が聞くので僕はそこだそこを大きく開くんだと言って触っていたらまるで牝ヤギが子を産むときのような声を上げはじめ僕も我を失いまるでこの世の終わり何が何だかわからずに百合のような純潔さが失われた

「問題は変わりません、わが友よ」とニケタスが言った。「寛大にも私は、あなたが〈嘘つき王子〉になりたがっていると指摘しましたが、いま気づかされました。あなたは神になろうとしている」

「神聖な使徒十二人全員にかけて誓おう」とゾシモスは言った。
「十一人だ、この罰当たりめ」バウドリーノは彼の服をつかんでどなった。「十二人と言うのは、ユダも含めてのことだな!」

「おお主よ、今度こそ私は死にます。さあ天国が見えてきたぞ。ああ、なんと美しい……」
「父さん、何が見えるのですか?」バウドリーノは涙声になっていた。
「まさにわが家の牛小屋のようだが、清潔そのもの。ロジーナもいる……。聖女みたいなおまえの母さんがいるぞ、くそばばあ、さあ、堆肥用の熊手をどこにやったか言うんだ……」

彼女の言う神、神々が、キリスト教徒の神でないとすれば、当然ながら、嘘偽りの神にちがいなかった……。いったい、このヒュパティア族の女は何を語っているのだろうとバウドリーノは自問した。しかしそれはたいしたことではなかった。彼女の話し声が聞ければそれで充分であり、彼女の真実のためなら死んでもよい気分だった。

「どうしてあなたは、これほどまでに賢いのですか?」とひとりが尋ねた。バウドリーノは答えた。「なぜなら、私は身を隠すから」
「どのようにして身を隠すのですか?」
バウドリーノは片手を差し出し、手のひらを見せた。「目の前に何が見える?」と尋ねた。「手です」と男は答えた。
「ほら、うまく隠れることができるではないか」